ユリシーズを読んだ
集英社文庫ヘリテージシリーズの四分冊を読んだ。
理由
まとめて買ったまま最後まで読んでいなかったのをやっつけることにした。
感想箇条書き
「文学にはこんなことができる(できた)のだ」と示したのだと思うが、実際にこれを読んで体験しなくても良かった気がする。 長いし(注を割と読んだので時間がかかった)、途中から読むのが辛く(後述)、他の本を何冊か読んだ方が良かった。
読んでいるうちは「これは研究のタネになるからありがたがられてるだけだろ」と悪態をついたこともあったけど、 結局自分の知識や理解力や感受性、想像力が小さいんだな、と弱気になった。
スティーヴンが塔へ戻らないと決めた理由がわかっていない……ので、読んで良かったのかもしれない。
大学卒業までに読みたくなったら読めばいいと思う。買うと高いので図書館で借りるのが良い。
これが文庫で出たのは多分良いことなんだなと思うが、売れたのだろうか……。
読む前に知っておけばよかったこと
- 家系図は4冊目の付録にあるので、自分で描かなくていい。
- 一冊目の解説とエッセイと資料は最後に読めばよかった。最初に読んだら退屈に感じた。
読むのがつらい
三冊目(14挿話以降)から辛くなった。
14挿話では原文の段階でいろいろな時代の文体が駆使されており、和訳ではそれを反映するべく工夫がされている。 使われた文体を注から拾い上げた(漏れがあるかもしれない)。
漢文くずし / 祝詞の文体 / 古事記 / 万葉集の長歌 / 宇津保物語 / 源氏物語 落窪物語ほかの王朝物語 / 平家物語 / 太平記 / 義経記(あたり) / 恨の介 竹斎ほか仮名草子 / 切支丹文学、ことにイソポ物語 / 井原西鶴あたりの浮世草子 / 近松ほかの浄瑠璃 / 本居宣長の擬古文 / 三遊亭円朝の人情噺 / 滝沢馬琴 / 式亭三馬の浮世風呂 浮世床 / 石田梅岩 / 平田篤胤 / 黒岩涙香 / 初期の森鷗外 / 若松賤子訳『小公子』 / 初期の夏目漱石 / 菊池寛『真珠夫人』 / 永井荷風 / 谷崎潤一郎 / 石川淳 / 宮沢賢治
こんな具合なので、三冊目を開いた途端つらかった。読んでも「マリガンが登場した」程度の解像度しか持てず、一部を除いて流し読みした。
14挿話以降は文体・形式による読みにくさも、内容の捉えにくさ(幻想が混じっている)もあった。
最終挿話については、「読点が一切ない」「漢字が一部使われない」という読みづらさはあるが、1ページ当たり6から8の拍子で速く読むことをこころがけると楽になった。
雑学
注を読んでいると色々ある。
9挿話
p.66 キリスト教の掟 キリスト教徒は高利貸になることを禁じられているから、この商売はユダヤ教徒が一手に引き受けることになる。
そうなのか?
p.149 当時(※エメット処刑の1803年)は絞首刑執行後死体を四つ裂きにして内臓を引きずり出すのが決りだった。
人間はどこでも野蛮だなと頷いた。
12挿話
p.309 五ギンニズ ギニーは21シリングに当る貨幣単位。弁護士、医師などの謝礼に常用される。
なぜそんな使い分けをする?
p.310 綱をこまかくきざんで 絞首刑執行に用いられたロープは魔力を持っていて、頭痛、熱病その他を治すし、幸運をもたらし事故を防ぐ、と信じられていて、絞首人はその絞首索を売って金を得た
こういうのありそう。
13挿話
実際の求婚件数と成就率はどうだったのかちょっと気になる。
14挿話
p.92 鶏姦(バガリー)
ニワトリを犯すのかと思ったが、「鶏」は当て字らしい。
さらにbuggeryはブルガリア由来だった。
16挿話
p.86 刺青 エドワード七世を含め、十九世紀に刺青が上流社会で流行した。
これは実際日本を訪れた際に刺青を彫ってもらった、と述べる本があるとの記述が一応ネット検索結果にあるけど、なんとも言えない。
p.95 ティッチボーン事件 イギリスの裕福な貴族ティッチボーン家の相続人がオーストラリアから帰国の途中カリブ海で船が沈没して行方不明になった。 それから十三年後(1866)に彼になりすました男が現れ、故人の母親はこれを相続人と認めたが、故人の同級生のベリュー卿の証言で偽物と判明した。 法廷史上で有名なこの事件は多くの推理小説の原型となっている。
17挿話
p.163 螺旋コルク抜きは1860年の発明
遅い気がする。
18挿話
p.362 それともあのコンドームがまださいふのなかにはいってるかどうかしらべてあたしが知らないと彼は思ってるんだわ
この時代(舞台は1904年)から「男がコンドームを財布に入れていて、それを妻が知っている」。個人的には財布に入れるものではない(傷みそう)と思う。